陸トレは「水泳に還元されるもの」だけを選ぶ

スイマーが陸上で筋トレや体幹トレーニングをするとき、目的は筋肉を大きくすることではない。競泳は体重が増えると浮力と推進効率のバランスが崩れるため、重量系の過剰なトレーニングはむしろタイム低下の原因になる。

陸トレの正しい目的は3つに絞れる。

  1. 水中で出せない可動域を陸上で確保する
  2. 水中で使う筋群を陸上で連動させる
  3. 怪我のリスクを減らす(特に肩・腰・膝)

この記事では、限られた時間で上記3つに還元される陸トレを泳法別・目的別に整理する。

スイマーに必要な陸トレ3本柱

時間が限られているなら、以下の3つから欠かさず入れる。

1. 体幹(コア)トレーニング

泳ぎの安定の中心。ローリング・うねり・グライドの全てが体幹の剛性で成立している。

2. 肩まわりの柔軟性+回旋筋腱板の強化

スイマーの故障ナンバー1が「スイマーズショルダー」。肩関節の可動域を保ちつつ、深層筋(インナーマッスル)を鍛えることで予防する。

3. 下半身・股関節の可動性

キックの推進力と、スタート・ターンの爆発力に直結する。

この3本柱を週2〜3回、1回30〜45分で回すだけで、水泳パフォーマンスには十分な影響が出る。

体幹トレーニングのメニュー例

プランク系

  • フロントプランク: 30秒〜60秒×3セット
  • サイドプランク: 左右30秒×3セット(ローリング安定に効く)
  • リバースプランク: 30秒×3セット(背面の体幹連動)

ダイナミック系

  • バードドッグ: 四つん這いから対角の手足を伸ばす、10回×3セット。背泳ぎのキックと連動
  • デッドバグ: 仰向けで対角の手足を伸ばす、10回×3セット。コア安定
  • スーパーマン: うつ伏せから手足を同時に持ち上げる、10回×3セット。バタフライのうねり筋連動

抗回旋(Anti-Rotation)

  • パロフプレス: ケーブルまたはチューブで片手で引く動作を耐える、左右10回×3セット。ローリング制御に最も効く

肩まわりのトレーニング

可動域確保(柔軟性)

  • 胸椎モビリティ: Thread the Needleなど、胸椎の回旋可動域を引き出すストレッチ
  • 肩甲骨リトラクション: 背中で両手を組む動作で肩甲骨を寄せる
  • ウォールスライド: 壁に沿って手を上下させる、15回×3セット

インナーマッスル強化

  • チューブ外旋: エクササイズチューブで肩を外旋、左右15回×3セット
  • チューブ内旋: 同じく内旋、左右15回×3セット
  • Yレイズ / Tレイズ: 軽いダンベルで肩甲骨周りの小さな筋群を鍛える

注意: インナーマッスル強化は重い負荷では意味がない。1〜3kg程度のダンベルまたはチューブで正しいフォームで行うのが原則。

アウターマッスル(軽負荷)

  • ラットプルダウン: 軽めの重量で20回×3セット。背中の広がりを作る
  • プッシュアップ: 15〜20回×3セット。体重のみで十分

下半身・股関節のトレーニング

可動性

  • ヒップオープナー: 鳩のポーズなど、股関節を外旋する動き
  • 足首のドーシフレクション: 足首を反らす可動域を確保(特に平泳ぎキック)
  • 90/90 ヒップ: 座位で両股関節を90度ずつ曲げ、左右に切り替える

筋力

  • ゴブレットスクワット: ダンベルを胸に抱えてスクワット、10回×3セット
  • ランジ: 左右10回×3セット
  • ヒップヒンジ(ルーマニアンデッドリフト): ハムストリングと臀筋、10回×3セット

爆発力(スタート・ターン用)

  • ボックスジャンプ: 30〜60cmの台に跳び上がる、5回×3セット
  • ブロードジャンプ: 立ち幅跳び、5回×3セット

泳法別の重点ポイント

クロール主体なら

  • 胸椎の回旋可動域: 呼吸時の体のねじれに直結
  • 抗回旋コア: ローリングに対する安定性
  • 肩インナーマッスル: リカバリー動作の保護

バタフライ主体なら

  • 胸椎伸展: うねり動作の可動域
  • 背筋の筋持久力: 短距離でも後半に効く
  • ハムストリング: 2波キックの下半身推進

平泳ぎ主体なら

  • 股関節の内外旋: カエル足の柔軟性
  • 足首の背屈: キックのキャッチ面積
  • 内転筋: キックのクロージング

背泳ぎ主体なら

  • 肩甲骨の後傾可動域: 入水時の理想姿勢
  • コア安定: 仰向け姿勢の水平キープ
  • 臀筋・ハム: キック推進

1週間のモデル

週3回、各45分の陸トレを組む場合の例。

曜日テーマ内容(1時間)
体幹+肩インナープランク系、抗回旋、チューブ外旋/内旋
下半身+爆発力スクワット、ランジ、ボックスジャンプ
柔軟性+コア胸椎モビリティ、股関節可動性、体幹ダイナミック

練習日と陸トレ日を分ける場合と、練習後に陸トレを入れる場合がある。練習後に陸トレの場合は負荷を下げ、陸トレ日は水泳負荷を下げるのが原則。

陸トレでやってはいけないこと

ベンチプレス大量

胸の肥大は水中での抵抗増加と肩の可動域低下を招く。ベンチプレス中心の筋トレは水泳には不向き。

マキシマム重量のスクワット・デッドリフト

爆発力を狙う競技選手なら取り入れる価値があるが、マスターズ・一般層では怪我のリスクが上回る。軽〜中重量で回数を意識する方向が安全。

過剰な腹筋運動

シットアップ100回を毎日、のような動作は腰痛の原因になる。プランク系・抗回旋系を中心に、動作ごとの質を優先する。

休みなし

陸トレは水中練習と同じで、回復時間がパフォーマンスに直結する。週7日やればいいというものではない。

「陸トレで伸びる」の正体

陸トレで水泳タイムが伸びる人の特徴は、ほぼ例外なく**「水中で使う動きを陸で再現している」**ことにある。ジムのマシンで一般的な筋肉を増やしても、水泳には還元されにくい。

自分の泳ぎのビデオを撮り、どこで可動域が足りないか、どこでフォームが崩れるかを確認したうえで、その部分を陸トレで補強する。この流れができる人が、最終的に陸トレを水泳に転換できている。

参考リンク