
水泳のセット練習メニュー例|目的別5パターンで組み方を学ぶ
メニューは「目的」から逆算して組む
「週に何回も泳いでいるのに、なかなかタイムが伸びない」「いつも同じようなメニューばかり泳いでしまう」と悩んでいませんか?
一人で練習しているマスターズスイマーによくあるのが、練習の目的と実際の負荷がズレているケースです。ただ長い距離を泳ぐだけでは、一定のペースで泳ぐ能力しか身につかず、スピードの底上げにはつながりません。
ここでは、代表的な5つの目的に沿って、スポーツ科学に基づくメインセットの組み方をご紹介します。
全メニュー共通の基本構成(固定ブロック)
日々の練習でメニューをゼロから考えるのは大変です。そこで、水泳の基本となるウォーミングアップ・ドリル・クールダウンを毎回同じ(固定)にし、メインセットだけを目的別に差し替える「テンプレート方式」をおすすめします。
今回は、以下の「固定の800m」をベースとしてメニュー例を組んでいます。
【毎回共通の固定ブロック(計800m)】
| ブロック | 内容 | 距離 | 目安・意図 |
|---|---|---|---|
| W-up | 200m SKPS | 200m | 50mずつ Swim→Kick→Pull→Swim。全身をほぐす |
| Drill 1 | 8 × 25m スカリング @ 0:45 | 200m | 手のひらや前腕で水をつかむ感覚を整える |
| Drill 2 | 8 × 25m Drill Choice @ 0:45 | 200m | 自分の課題に合わせたドリル(片手スイムなど) |
| Main | (以下の目的別パターンに変更) | - | その日のメインテーマ |
| C-down | 200m Easy | 200m | 疲労物質を流し、心拍数を落ち着かせる |
パターン1. スピード系(トップスピードの向上)
狙い: レース本番の最高速度(スプリント力)を引き上げる。
メインセット例(約400m)
| ブロック | 内容 | 意図 |
|---|---|---|
| Main 1 | 4 × 50m @ 3:00(All Out、全力) | 神経系に最高速度を記憶させる |
| Main 2 | 4 × 25m @ 1:30(ノーブレス・Max Speed) | 呼吸動作を排除し、純粋なトップスピードを出す |
このメニューの意図
純粋なスプリント力を鍛える場合、本数を絞り、完全回復してから次を泳ぐのが鉄則です。
全力を出した後、筋肉内のエネルギー源(クレアチンリン酸)が回復するのには約2〜3分かかります。そのため、サークルを極端に長く取り、毎本フレッシュな状態で最高速度を出すことが求められます。逆に「短いサークルで10本ダッシュ」といったメニューは、徐々にスピードが落ちてしまうため、スピード強化ではなく乳酸耐性の練習になってしまいます。
参考・出典: 筋肉のエネルギー代謝とクレアチンリン酸の回復過程に基づくスプリントトレーニングの一般論
パターン2. 持久力系(有酸素ベース・AT値の強化)
狙い: 後半にバテないための基礎体力をつける。
メインセット例(約1,600m)
| ブロック | 内容 | 意図 |
|---|---|---|
| Main 1 | 4 × 200m @ 3:30(一定ペース) | 有酸素能力のベース作り |
| Main 2 | 8 × 100m @ 1:45(Descend 1-4, 5-8) | ペースを段階的に上げることでAT値を刺激する |
このメニューの意図
持久力を効率よく伸ばすには、ハァハァと息が上がりすぎない、最大心拍の70〜80%程度のペース(無酸素性作業閾値:AT値付近)で泳ぎ続けることが推奨されます。
目安としては15〜20秒程度の休憩が取れるサークルを設定し、ストロークを崩さずに一定ペースを刻み続けることが重要です。「100mと50m、どちらで回るべきか」については以下の記事も参考にしてください。
👉 関連記事: 100mと50mのインターバル練習、どちらが効果的?距離と本数の考え方
参考・出典: Ernest W. Maglischo, Swimming Fastest (2003) - EN2(有酸素能力・閾値)トレーニングの概念
パターン3. テクニック系(泳ぎの効率改善・ストローク長向上)
狙い: 無駄な抵抗を減らし、1ストロークあたりの進む距離(DPS)を伸ばす。
メインセット例(約600m)
| ブロック | 内容 | 意図 |
|---|---|---|
| Main 1 | 8 × 50m @ 1:15(DPS:毎本ストローク数を数える) | ストローク長の意識付け |
| Main 2 | 4 × 50m @ 1:15(ターンの前後15mのみ全力、他はEasy) | 壁際での減速を防ぐ技術練習 |
このメニューの意図
トップスイマーと一般スイマーの最大の違いは、腕を回すテンポではなく**1ストロークあたりの進む距離(DPS)**にあることが研究で示されています。
テクニック系の日は、ただ泳ぐのではなく「自分のストローク数を数える」クセをつけましょう。疲れてストローク数が増える前に練習を切り上げ、良い動作だけを脳に反復学習させることが上達の近道です。
参考・出典: Craig, A. B., & Pendergast, D. R. (1979). Relationships of stroke rate, distance per stroke, and velocity in competitive swimming.
パターン4. レース想定系(ブロークン・シミュレーション)
狙い: 大会本番の目標タイムを分割して達成し、レースの疲労度をシミュレーションする。
メインセット例(100m種目を目標にする場合、約500m)
| ブロック | 内容 | 意図 |
|---|---|---|
| Main | 100m ブロークン(50m+25m+25m)× 3セット ※間の休憩は10秒。セット間は4分休む | レース本番のペース感覚と疲労の再現 |
| Secondary | 4 × 50m @ 1:30(フォーム維持) | レース終盤の苦しい中でのフォーム維持 |
このメニューの意図
練習中に100mを一本全力で泳いでも、本番と同じタイムを出すのは困難です。そこで有効なのが、短い休息(10秒など)を挟む「ブロークン練習」です。
例えば「50m泳いで10秒休み、25m泳いで10秒休み、25m泳ぐ」。その合計タイムから休憩の20秒を引いた「純粋な泳動作のタイム」を目標タイムに合わせます。これにより、実際のレース本番と非常に近い血中乳酸濃度や心拍数を再現でき、前半のスピード感と後半の粘りをリアルに体感できます。
参考・出典: Mujika, I., et al. (1996). The physiological evaluation of the swimmer. (レースペース・シミュレーションの血中乳酸動態)
パターン5. リカバリー系(積極的休養・アクティブリカバリー)
狙い: 激しく追い込んだ翌日などに、血流を促して疲労物質を取り除く。
メインセット例(約800m)
| ブロック | 内容 | 意図 |
|---|---|---|
| Main | 400m Pull(3回に1回の呼吸で体を長く伸ばす) | 心拍を上げず、水をつかむ感覚を整える |
| Drill | 8 × 50m @ 1:15(25m スカリング / 25m Easy) | 関節の可動域を広げ、筋肉の張りを取る |
このメニューの意図
完全に休んでしまうよりも、低強度の運動を軽く行う「アクティブリカバリー(積極的休養)」の方が、血中の乳酸を早く取り除けることが証明されています。
リカバリーの日は最大心拍数の60%以下の力で泳ぎ、絶対に息を上げないようにします。練習というより「水中でのマッサージ」や「ストレッチ」と考え、ゆったりと泳ぎましょう。
参考・出典: Martin, L., et al. (1998). Effects of active recovery on plasma lactate and anaerobic power following repeated intensive exercise.
社会人スイマー向け:週1〜3回の現実的な組み合わせ方
仕事や家庭で忙しい社会人スイマーにとって、「週に何度も泳ぐ」ことは現実的ではありません。多くの場合、週に1〜3回プールに通えれば十分素晴らしいことです。
限られた練習回数でも確実にタイムを伸ばすためには、能力が落ちるまでの期間(ディトレーニング)を逆算してメニューを組み合わせるのがコツです。
1. 持久力(有酸素能力)は「週1〜2回」
有酸素能力(VO2maxや毛細血管の発達など)は、完全に練習を休むと約10〜14日で低下し始めることが分かっています。つまり、持久力系のメニューは「最低でも10日に1回、できれば週1〜2回」入れておけば、心肺機能は維持・向上が可能です。
2. スピード(神経出力)は「1〜2週に1回」で十分
全力で泳ぐスプリント練習は、筋肉だけでなく「中枢神経(脳からの指令)」を激しく疲労させ、回復に時間がかかります。神経系の適応は有酸素能力よりも落ちにくいため、トップスピードを出す練習は**「多くても週1回、あるいは2週に1回」**でも十分に効果を発揮します。毎回スプリント練習をすると、神経疲労が抜けず逆にタイムが落ちてしまいます。
3. 週1〜3回の組み合わせ例
【週1回しか泳げない場合】
- 毎回「パターン4(レース想定)」か「パターン2(持久力)」
- 週1回なら神経疲労を気にする必要はありません。最も心肺機能に刺激が入るメニューを選び、能力低下を防ぎます。
【週2回泳げる場合】
- 平日「パターン3(テクニック)」/ 休日「パターン1(スピード)」
- 平日の仕事帰りはドリルで感覚を磨き、休日にしっかり回復した状態でスピードを出します。
【週3回泳げる場合】
- 平日①「パターン2(持久力)」/ 平日②「パターン3(テクニック)」/ 休日「パターン4(レース想定)」
- 持久力で土台を作り、ドリルで泳ぎを整え、週末にレースに近い強度で追い込むバランスの良いサイクルです。
参考・出典: Mujika, I., & Padilla, S. (2001). Muscular characteristics of detraining in humans. (ディトレーニングとトレーニング頻度の関係)
日々の練習でタイムや主観的なキツさを記録していくと、自分がどのパターンの練習で伸びやすいのかが見えてきます。固定のアップとダウンに目的別のメインを組み合わせて、効果的な練習サイクルを作ってみてください。


