メニューは「目的」から逆算して組む

「週に何回も泳いでいるのに、なかなかタイムが伸びない」「いつも同じようなメニューばかり泳いでしまう」と悩んでいませんか?

一人で練習しているマスターズスイマーによくあるのが、練習の目的と実際の負荷がズレているケースです。ただ長い距離を泳ぐだけでは、一定のペースで泳ぐ能力しか身につかず、スピードの底上げにはつながりません。

ここでは、代表的な5つの目的に沿って、スポーツ科学に基づくメインセットの組み方をご紹介します。

全メニュー共通の基本構成(固定ブロック)

日々の練習でメニューをゼロから考えるのは大変です。そこで、水泳の基本となるウォーミングアップ・ドリル・クールダウンを毎回同じ(固定)にし、メインセットだけを目的別に差し替える「テンプレート方式」をおすすめします。

今回は、以下の「固定の800m」をベースとしてメニュー例を組んでいます。

【毎回共通の固定ブロック(計800m)】

ブロック内容距離目安・意図
W-up200m SKPS200m50mずつ Swim→Kick→Pull→Swim。全身をほぐす
Drill 18 × 25m スカリング @ 0:45200m手のひらや前腕で水をつかむ感覚を整える
Drill 28 × 25m Drill Choice @ 0:45200m自分の課題に合わせたドリル(片手スイムなど)
Main(以下の目的別パターンに変更)-その日のメインテーマ
C-down200m Easy200m疲労物質を流し、心拍数を落ち着かせる

パターン1. スピード系(トップスピードの向上)

狙い: レース本番の最高速度(スプリント力)を引き上げる。

メインセット例(約400m)

ブロック内容意図
Main 14 × 50m @ 3:00(All Out、全力)神経系に最高速度を記憶させる
Main 24 × 25m @ 1:30(ノーブレス・Max Speed)呼吸動作を排除し、純粋なトップスピードを出す

このメニューの意図

純粋なスプリント力を鍛える場合、本数を絞り、完全回復してから次を泳ぐのが鉄則です。

全力を出した後、筋肉内のエネルギー源(クレアチンリン酸)が回復するのには約2〜3分かかります。そのため、サークルを極端に長く取り、毎本フレッシュな状態で最高速度を出すことが求められます。逆に「短いサークルで10本ダッシュ」といったメニューは、徐々にスピードが落ちてしまうため、スピード強化ではなく乳酸耐性の練習になってしまいます。

参考・出典: 筋肉のエネルギー代謝とクレアチンリン酸の回復過程に基づくスプリントトレーニングの一般論


パターン2. 持久力系(有酸素ベース・AT値の強化)

狙い: 後半にバテないための基礎体力をつける。

メインセット例(約1,600m)

ブロック内容意図
Main 14 × 200m @ 3:30(一定ペース)有酸素能力のベース作り
Main 28 × 100m @ 1:45(Descend 1-4, 5-8)ペースを段階的に上げることでAT値を刺激する

このメニューの意図

持久力を効率よく伸ばすには、ハァハァと息が上がりすぎない、最大心拍の70〜80%程度のペース(無酸素性作業閾値:AT値付近)で泳ぎ続けることが推奨されます。

目安としては15〜20秒程度の休憩が取れるサークルを設定し、ストロークを崩さずに一定ペースを刻み続けることが重要です。「100mと50m、どちらで回るべきか」については以下の記事も参考にしてください。

👉 関連記事: 100mと50mのインターバル練習、どちらが効果的?距離と本数の考え方

参考・出典: Ernest W. Maglischo, Swimming Fastest (2003) - EN2(有酸素能力・閾値)トレーニングの概念


パターン3. テクニック系(泳ぎの効率改善・ストローク長向上)

狙い: 無駄な抵抗を減らし、1ストロークあたりの進む距離(DPS)を伸ばす。

メインセット例(約600m)

ブロック内容意図
Main 18 × 50m @ 1:15(DPS:毎本ストローク数を数える)ストローク長の意識付け
Main 24 × 50m @ 1:15(ターンの前後15mのみ全力、他はEasy)壁際での減速を防ぐ技術練習

このメニューの意図

トップスイマーと一般スイマーの最大の違いは、腕を回すテンポではなく**1ストロークあたりの進む距離(DPS)**にあることが研究で示されています。

テクニック系の日は、ただ泳ぐのではなく「自分のストローク数を数える」クセをつけましょう。疲れてストローク数が増える前に練習を切り上げ、良い動作だけを脳に反復学習させることが上達の近道です。

参考・出典: Craig, A. B., & Pendergast, D. R. (1979). Relationships of stroke rate, distance per stroke, and velocity in competitive swimming.


パターン4. レース想定系(ブロークン・シミュレーション)

狙い: 大会本番の目標タイムを分割して達成し、レースの疲労度をシミュレーションする。

メインセット例(100m種目を目標にする場合、約500m)

ブロック内容意図
Main100m ブロークン(50m+25m+25m)× 3セット
※間の休憩は10秒。セット間は4分休む
レース本番のペース感覚と疲労の再現
Secondary4 × 50m @ 1:30(フォーム維持)レース終盤の苦しい中でのフォーム維持

このメニューの意図

練習中に100mを一本全力で泳いでも、本番と同じタイムを出すのは困難です。そこで有効なのが、短い休息(10秒など)を挟む「ブロークン練習」です。

例えば「50m泳いで10秒休み、25m泳いで10秒休み、25m泳ぐ」。その合計タイムから休憩の20秒を引いた「純粋な泳動作のタイム」を目標タイムに合わせます。これにより、実際のレース本番と非常に近い血中乳酸濃度や心拍数を再現でき、前半のスピード感と後半の粘りをリアルに体感できます。

参考・出典: Mujika, I., et al. (1996). The physiological evaluation of the swimmer. (レースペース・シミュレーションの血中乳酸動態)


パターン5. リカバリー系(積極的休養・アクティブリカバリー)

狙い: 激しく追い込んだ翌日などに、血流を促して疲労物質を取り除く。

メインセット例(約800m)

ブロック内容意図
Main400m Pull(3回に1回の呼吸で体を長く伸ばす)心拍を上げず、水をつかむ感覚を整える
Drill8 × 50m @ 1:15(25m スカリング / 25m Easy)関節の可動域を広げ、筋肉の張りを取る

このメニューの意図

完全に休んでしまうよりも、低強度の運動を軽く行う「アクティブリカバリー(積極的休養)」の方が、血中の乳酸を早く取り除けることが証明されています。

リカバリーの日は最大心拍数の60%以下の力で泳ぎ、絶対に息を上げないようにします。練習というより「水中でのマッサージ」や「ストレッチ」と考え、ゆったりと泳ぎましょう。

参考・出典: Martin, L., et al. (1998). Effects of active recovery on plasma lactate and anaerobic power following repeated intensive exercise.


社会人スイマー向け:週1〜3回の現実的な組み合わせ方

仕事や家庭で忙しい社会人スイマーにとって、「週に何度も泳ぐ」ことは現実的ではありません。多くの場合、週に1〜3回プールに通えれば十分素晴らしいことです。

限られた練習回数でも確実にタイムを伸ばすためには、能力が落ちるまでの期間(ディトレーニング)を逆算してメニューを組み合わせるのがコツです。

1. 持久力(有酸素能力)は「週1〜2回」

有酸素能力(VO2maxや毛細血管の発達など)は、完全に練習を休むと約10〜14日で低下し始めることが分かっています。つまり、持久力系のメニューは「最低でも10日に1回、できれば週1〜2回」入れておけば、心肺機能は維持・向上が可能です。

2. スピード(神経出力)は「1〜2週に1回」で十分

全力で泳ぐスプリント練習は、筋肉だけでなく「中枢神経(脳からの指令)」を激しく疲労させ、回復に時間がかかります。神経系の適応は有酸素能力よりも落ちにくいため、トップスピードを出す練習は**「多くても週1回、あるいは2週に1回」**でも十分に効果を発揮します。毎回スプリント練習をすると、神経疲労が抜けず逆にタイムが落ちてしまいます。

3. 週1〜3回の組み合わせ例

【週1回しか泳げない場合】

  • 毎回「パターン4(レース想定)」か「パターン2(持久力)」
  • 週1回なら神経疲労を気にする必要はありません。最も心肺機能に刺激が入るメニューを選び、能力低下を防ぎます。

【週2回泳げる場合】

  • 平日「パターン3(テクニック)」/ 休日「パターン1(スピード)」
  • 平日の仕事帰りはドリルで感覚を磨き、休日にしっかり回復した状態でスピードを出します。

【週3回泳げる場合】

  • 平日①「パターン2(持久力)」/ 平日②「パターン3(テクニック)」/ 休日「パターン4(レース想定)」
  • 持久力で土台を作り、ドリルで泳ぎを整え、週末にレースに近い強度で追い込むバランスの良いサイクルです。

参考・出典: Mujika, I., & Padilla, S. (2001). Muscular characteristics of detraining in humans. (ディトレーニングとトレーニング頻度の関係)

日々の練習でタイムや主観的なキツさを記録していくと、自分がどのパターンの練習で伸びやすいのかが見えてきます。固定のアップとダウンに目的別のメインを組み合わせて、効果的な練習サイクルを作ってみてください。