
50m×20本か100m×10本か?インターバルトレーニングの距離・レストの違いと練習効果
「今日のメインスイムは50mを20本で回すか、それとも100mを10本で粘るか?」
マスターズスイマーや部活生なら誰もが一度は直面する、メニュー選択の悩みですよね。「100mの方がスタミナがつきそう」「50mだとラクをしている気がする」といった声もよく聞かれます。
しかし、合計距離とペースが同じなら、実は「長距離の持久力向上」という点ではどちらも大きな差はないということが、いくつかの研究から見えてきています。
では、私たちはどのようにインターバルの距離とレスト(休憩)を使い分ければいいのでしょうか。フォームの維持やスピード強化の観点から、それぞれの練習効果を整理してみましょう。
インターバルの「距離」で効果はどう変わる?
同じ「合計1000m」を泳ぐトレーニングでも、短い距離で区切るか、長い距離でまとめるかで、身体にかかるストレスの種類が変わります。
【短期間の違い】疲労度とフォームの維持
スペインのグラナダ大学の研究チーム(Cuenca-Fernándezら, 2021)は、全国レベルの競泳選手を対象に、「50m×20本」と「100m×10本」の疲労度を比較しました。 (※どちらも合計距離は1000m、ペースは自己ベストの95%、運動と休憩の比率は1:1という同じ条件で行われています)
その結果、50mで細かく分けた方が、ジャンプ力の低下(神経・筋肉の疲労)を抑えられ、ストロークの崩れを防ぎながら目標ペースを最後まで維持しやすいことがわかりました。

100mのインターバルは、後半になるにつれて乳酸が溜まりやすく、どうしてもフォームが乱れがちです。とくに疲労すると腰が下がってきてしまい、レースでは本来使わないような悪いフォームに陥ることがよくあります。
この「疲労状態でフォームを崩して泳ぐことの弊害」は、単にその時きついだけではなく、神経系(脳)の学習という観点から深刻なダメージを残します。スポーツ科学のモーターコントロール(運動制御)の研究でも、疲労下での運動は非効率な代償動作(腰が下がる、ストロークが極端に短くなるなど)を脳に覚え込ませてしまうことが指摘されています。
つまり、疲労した状態で100mを無理に回し続けることは、「遅い泳ぎ方」や「スプリントの出力が出せない動かし方」を反復練習して習得している状態になりかねません。これは単なる「根性練習」であり、結果的に有酸素能力しか上がらないという状態に陥りやすいのです。
一方で50mのショートインターバルなら、フレッシュな状態を保ちやすく、「良い泳ぎの技術」を維持したまま練習を終えられるというメリットがあります。
【中長期の違い】8週間後のタイムや持久力への影響
では、それを長く続けた場合の「トレーニング効果」はどうでしょうか。
ギリシャのアリストテレス大学の研究(Dalamitrosら, 2016)では、水泳経験者を「50mグループ(12〜16本)」と「100mグループ(6〜8本)」に分け、週3回の練習を8週間続けさせました。 (※こちらも合計距離、ペース、運動と休憩の比率(2:1)は完全に同じ条件です)
その結果、8週間後の100m・400mのタイム向上や、有酸素能力(持久力)の向上において、両グループに**「本質的な差はない」**ことが確認されました。
つまり、身体は「何メートルを何本泳いだか」をカウントしているわけではなく、「エネルギー需要の総量」に適応しようとします。強度が同じであれば、50mで細かく刻んでも、100mで長く泳いでも、スタミナは同じように強化されると言えそうです。
目的で使い分ける「50m」と「100m」
「なんだ、結果が同じなら疲れない50mだけやればいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、メニューにはそれぞれの「意図」があります。

◆ 50m(ショートインターバル)を選ぶ日
- ストローク効率やテクニックを崩さずに、質の高い反復練習をしたい
- 目標のレースペースを体に正確に覚え込ませたい
◆ 100m(ロングインターバル)を選ぶ日
- 有酸素性の回路をしっかり追い込みたい
- レース後半の「きつい状況から粘る精神力」を鍛えたい
- 連続して出力を保つ能力(ピーク有酸素パワー)を高めたい
実際のマスターズの現場において、100mのインターバルがメニューにしっかり組み込まれ、それをフォームを崩さずに回り切れるのは、かなりレベルが高い(基礎体力がベースとして備わっている)スイマーに限られます。「自分は体力が続かないから、無理に100mを回さずにスプリント特化(ショートレストやフルレスト中心)にしている」というスイマーも少なくありません。 人によって「向き不向き」やベースの体力が異なるため、周りが100mをやっているからといって無理に付き合う必要はないのです。
細胞は、毎日同じ刺激が続くと「慣れ」てしまい、成長が止まりがちです。「今日は50mでテンポよく」「今日は100mで粘る」といったように、生理学的な中身は保ちつつ「形」に変化をつけることが、プラトー(停滞期)を抜け出すコツになります。
注意点:有酸素練習では「絶対スピード」は伸びない
最後に、とても重要な「特異性の原理」について触れておきます。
先ほどの8週間の研究では、100mや400mのタイムは向上したものの、「どちらの練習をしても50mの絶対スピード(スプリント力)は速くならなかった」という結果が出ています。
「スタミナをつければ、後半バテずに全体のタイムが上がるはずだ」と考えがちですが、そもそも基礎的なトップスピードが上がらなければ、巡航ペースを引き上げることはできません。 純粋なスピードを求めるなら、有酸素のインターバルだけでなく、しっかりと長めのフルレスト(休憩)をとって全力で泳ぐスプリント専用の練習を組み合わせる必要があります。
まとめ
- 合計距離と強度が同じなら、50mでも100mでも「持久力の向上」はほぼ同じ。
- 50m:疲労を抑えやすく、綺麗なフォームと正確なペースを維持しやすい。
- 100m:後半の粘りや、より追い込んだ有酸素能力の強化に向いている。
- 持久力練習ばかりでは「絶対スピード」は伸びないので、スプリント練習も別で取り入れること。
「今日は何を目的とした練習なのか?」を意識して、メニューの形にとらわれず、効率よくレベルアップを目指しましょう!
