
けのびで足が沈む?流体力学から考える正しいストリームラインの作り方
壁を蹴った後の「失速」はなぜ起きるのか
水泳の基本中の基本である「けのび」。壁を力強く蹴ったはずなのに、数メートル進むとすぐにブレーキがかかり、足がスッと沈んでしまうことはありませんか?
「もっとお腹に力を入れて」「足をピンと伸ばして」
そんなアドバイスを受けても、なかなか解決しないことが多いですよね。実は、けのびで勢いを殺さずに真っ直ぐ進むためには、単に体を一直線にするだけでは足りません。ポイントは、水の中で体が受ける「力」をどう逃がすか、あるいはどう利用するかという流体力学の視点にあります。
速いけのびは、完全に「水平」ではない
水に浮こうとすると、どうしても肺のある上半身が浮きやすく、筋肉や骨が詰まった下半身は沈みやすくなります。これを無理に「水平(フラット)」にしようとすると、気がつかないうちに足が下がり、「後傾姿勢」になってしまいます。
後傾姿勢のまま進むと、体全体が水の抵抗を正面から受けてしまい、大きなブレーキになります。
では、トップスイマーのけのびはどうなっているのでしょうか。実は完全に水平ではなく、足の方が頭よりもほんのわずかに高い**「前傾姿勢」**を保っていることが多いのです。

背中の「ダウンフォース」とシーソーの原理
なぜ前傾姿勢が良いのでしょうか。ここで流体力学の考え方が少しだけ登場します。
少し前傾した姿勢で進むと、前方から来る水は背中側に当たります。すると背中側の水の流れが少しせき止められて圧力が上がり、体を下へ押し付けようとする力(ダウンフォース)が生まれます。
この「胸や背中を押さえつける力」が非常に重要です。
肺を支点としたシーソーをイメージしてみてください。胸側が下へグッと押されると、その反動で沈みがちだった下肢がフワッと水面に向かって持ち上がります。無理に足を持ち上げようとしなくても、姿勢の角度を数度変えるだけで、水流の力を使って足を浮かせることができるのです。

沈まない姿勢を作る3つの感覚ドリル
理屈が分かっても、水中でそれを再現するのは難しいもの。ここでは、陸上や水中で姿勢を整えるための具体的なヒントをいくつか紹介します。
1. 「リブフレア」を防ぎ、肋骨を締める
水中で胸を張ろうとすると、みぞおちから下の肋骨がパカッと開いてしまう「リブフレア」という状態になりがちです。これでは腰が大きく反ってしまい、下半身が沈む原因になります。
陸上で、フィジーク選手がポージングのときにウエストを細く見せるように、肋骨をキュッと内側へ「しまう(締める)」感覚を持ってみましょう。

まずはストローで息を細く長く吐き出してみてください。息を吐き切る手前で、みぞおちの下の肋骨がギューッと閉まる感覚が味わえるはずです。 ただし、息を吐き切ったまま水中でけのびをするわけではありません。 大切なのは「肋骨が締まった感覚」を保つこと。その感覚を維持したままスッと息を吸い込み、真下に浅くスクワットしてみます。 腰に無理な力が入らず、足の裏の真ん中(土踏まず)にスッと体重が乗るはずです。これが、水中で最も安定してダウンフォースを受け止められる姿勢のベースになります。
2. 後頭部で水面を押し、胸を3cm沈める
両腕を組んでけのびの姿勢をとったとき、ただ顎を引くのではなく、首の裏を長く伸ばすようにします。 「後頭部で水面を軽く押し上げながら、胸を3cmだけ深く沈める」 この感覚を持つと、自然と前傾姿勢ができ、背中に水流を受けて下半身が浮きやすくなります。
3. お尻を締めて、骨盤を安定させる
シーソーの原理で足が持ち上がっても、体の軸がフニャフニャだと腰から折れてしまいます。 足を伸ばすことよりも、お尻の穴を軽く締め、恥骨(骨盤の前側)をわずかに前に突き出すような意識を持つと、下半身のブレがなくなります。

焦って浮き上がらないこと
水深の浅いプールで練習していると、プールの底にぶつかるのが怖くて、壁を蹴った直後にすぐ上を向いてしまいがちです。しかし、この「顔を上げる」動作自体が大きなブレーキになります。
まずは短い距離でいいので、壁を蹴ったあと「胸を沈めて足を浮かす」感覚のまま、勢いが自然に止まるまで待つ練習を取り入れてみましょう。自分の体が水の中を滑っていく感覚が掴めれば、その後のスイムの進み具合も劇的に変わるはずです。
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