練習中、前の泳者のすぐ後ろについて泳ぐと、いつもより楽に進める感覚があると思います。自分が先頭で水を受けているときより、水が少し軽く感じたり、同じテンポでも前に進みやすかったりするあの感覚です。

このように、前の泳者が作った波や水流を利用して泳ぐことを「ドラフティング」と呼びます。オープンウォーターやトライアスロンではよく使われる考え方ですが、プール練習でも、前後に並んで泳いでいると自然に起こっています。

ただし、ドラフティングは「とにかく人の後ろにいれば得」という単純な話ではありません。距離が近すぎれば接触のリスクがあり、離れすぎれば効果は薄くなります。この記事では、ドラフティングの基本と、研究から見える距離の考え方を整理します。

先に短く言うと、ドラフティングは前の泳者が作る波や流れを利用して、後ろの泳者が少ない力で進みやすくなる現象です。ただ、真後ろに近づけばよいという話ではなく、距離、安全性、泳力差まで含めて考える必要があります。

前の泳者が作る水流に後ろの泳者が入るドラフティングのイラスト

ドラフティングとは何か

ドラフティングは、前を進む人や物体が作った流れの影響を、後ろの人が利用する現象です。自転車で前の選手の後ろに入ると空気抵抗が減るのと近い考え方です。

水泳では、前の泳者が水をかき分けながら進むことで、後ろに波や流れができます。後続の泳者はその流れの中に入ることで、自分が受ける抵抗を小さくできる可能性があります。

特に関係しやすいのは、次のような場面です。

  • オープンウォーターで集団について泳ぐ
  • トライアスロンのスイムパートで前の選手を追う
  • 練習中にサークルで前後に並んで泳ぐ
  • 2人1組でペースを合わせて泳ぐ

競泳のレースではレーンロープで区切られているため、オープンウォーターほど強く意識する場面は多くありません。それでも、練習中に前の人との間隔が変わると、泳ぎやすさが変わる経験はあるはずです。

なぜ後ろの泳者は楽になるのか

泳者が進むとき、身体の前方では水を押し、後方には乱れた流れができます。後ろの泳者がその流れに入ると、完全に静かな水を自分だけで押し分けるよりも、必要な力が小さくなることがあります。

2008年のJSSMの研究では、2人の泳者モデルを使った数値流体解析で、後続泳者の抵抗係数が距離によってどう変わるかが調べられています。

この研究では、先頭泳者のつま先から後続泳者の頭までの距離を0.5mから8.0mまで変えています。その結果、**0.5mの距離では、後続泳者の抵抗係数が先頭泳者の約56%**まで下がると示されました。

もちろん、これは身体を完全に水中に置いた受動的なモデルであり、実際の泳者のストローク、キック、水面の波、接触リスクまでは含みません。それでも、「近い位置で後ろにつくと水の抵抗が小さくなりやすい」という方向性は、実感とも合いやすい結果です。

6mが「最適」という意味ではない

この研究で少し誤解されやすいのが、6m前後の距離です。

論文では、後続泳者の抵抗係数は距離が広がるにつれて先頭泳者に近づいていき、6mでは先頭泳者の約84%まで戻るとされています。また、6.45mから8.90m付近では、後続泳者と先頭泳者がほぼ同じ流体条件になると推定されています。

つまり、楽に泳ぐためのドラフティング効果が最大なのは6mではありません。むしろ、ドラフティング効果は近い距離ほど大きく、6m付近ではかなり薄れていると読む方が自然です。

6m前後の話は、練習で「前の人の水流の影響をできるだけ受けず、同じような条件で泳ぎたい」ときの目安として捉えるとよさそうです。実際、論文では、練習で後続泳者が先頭泳者と同じような流体条件に近づくためには、よく使われる5m間隔よりも、先頭が10m進んでからスタートするような運用が提案されています。

目的によって、近づくべき距離は変わります。

目的距離感の考え方
ドラフティングを使って楽に泳ぎたい前の泳者の足元に近い位置ほど効果が出やすい
接触を避けて安全に練習したい近づきすぎず、相手のキックが届かない距離を保つ
前後の泳者で同じ条件に近づけたい5mより長めの間隔を取る方が影響を受けにくい
オープンウォーターで集団に入る真後ろだけでなく、横や斜め後ろの位置も確認する

近ければ近いほど良い、ではない

研究上は、かなり近い位置で抵抗低減が大きくなります。ただ、実際の練習やレースでは、近ければ近いほど良いとは言い切れません。

前の泳者の足に何度も触れると、相手のリズムを崩します。キックの泡で前が見えにくくなることもあります。自分のストロークが詰まり、かえって泳ぎが小さくなることもあります。

ドラフティングを使うなら、まずは次の順番で考えるのが現実的です。

  1. 相手に接触しない
  2. 自分の呼吸とテンポを崩さない
  3. 前の泳者の流れに入りすぎて、フォームが小さくならない
  4. 楽に感じる位置を少しずつ探す

特にプールでは、後ろの人が足を触ってくるとストレスになります。チーム練習で試す場合も、あらかじめ「ドラフティング練習としてやる」と共有しておく方が安全です。

練習で試すなら

いきなりオープンウォーターで試すより、まずはプールで距離感をつかむ方がわかりやすいです。

2人1組で距離を変える

同じペースで泳げる相手と、25mまたは50m単位で距離を変えてみます。

セット内容見るポイント
1前後の距離を広めにして泳ぐ通常の泳ぎやすさを確認する
2前の泳者の足元に少し近づく水が軽く感じるか
3近づいたままテンポを一定にするストロークが詰まらないか
4先頭と後続を交代する前後で感覚がどう違うか

このとき、足に触れるほど近づく必要はありません。最初は「少し流れを感じる」くらいで十分です。

サークル練習では間隔の意味を変える

普段のサークル練習では、前の人との距離が短いほど後ろの泳者が楽になりやすくなります。つまり、同じメニューでも、前に出る人と後ろにつく人で負荷が少し変わる可能性があります。

全員に同じ負荷をかけたい練習では、前後の間隔を長めに取る。逆にレースの集団泳を想定したいときは、あえて近い距離で泳ぐ。目的によって間隔を変えると、同じメニューでも狙いがはっきりします。

レースで使うときの注意点

オープンウォーターやトライアスロンでは、ドラフティングは大きな武器になります。前の泳者にうまくつければ、体力を温存しながら同じ集団で進めるからです。

ただし、後ろにつくことだけに集中すると、進路や周囲の選手を見失うことがあります。前の人が蛇行すれば自分も蛇行しますし、急にペースが落ちれば巻き込まれます。

レースで使うなら、次の点を意識したいです。

  • 前の泳者の足だけを見続けない
  • 呼吸のタイミングで周囲も確認する
  • 接触しそうなら少し外す
  • 自分のペースより遅い集団に長く残らない
  • 最後に前へ出るタイミングを考えておく

ドラフティングは、楽をするためだけの技術ではありません。集団の中で自分の位置を保ち、体力を使う場面と温存する場面を選ぶための技術です。

まとめ

ドラフティングは、前の泳者が作る水流を利用して、後ろの泳者が楽に泳ぎやすくなる現象です。

研究では、前の泳者の足元に近い位置ほど後続泳者の抵抗が小さくなりやすいことが示されています。一方で、6m付近の距離は「最も楽な位置」ではなく、前の泳者の影響がかなり薄れて、先頭泳者に近い条件で泳ぎやすくなる距離として見るのが正確です。

練習では、ただ前の人に近づくのではなく、目的を分けて考えると使いやすくなります。楽に泳ぐ感覚を知りたいのか、集団泳に慣れたいのか、同じ負荷で泳ぎたいのか。距離の取り方が変わるだけで、メニューの意味も変わります。

まずは安全に、2人1組で距離を変えながら泳いでみる。前の人の後ろで水が軽くなる感覚をつかめると、オープンウォーターやトライアスロンの泳ぎ方も少し見えやすくなるはずです。

よくある質問

ドラフティングとは何ですか?

ドラフティングとは、前を泳ぐ人が作る波や水流を、後ろの泳者が利用して進みやすくする泳ぎ方です。オープンウォーターやトライアスロンでよく使われますが、プール練習でも前後に並んで泳ぐと自然に起こります。

前の泳者の真後ろに近づくほど効果は大きいですか?

近ければよいとは限りません。距離が近すぎると接触やキックを受けるリスクがあり、泳ぎも乱れやすくなります。研究では距離や位置によって抵抗低減の出方が変わることが示されているため、安全に泳げる間隔で水の軽さを感じるのが現実的です。

参考文献